プロローグ



かの聖王女と結ばれし者 聖魔両王国の真の主君とならん
運命の剣にて双つに分かたれしものは 一つとなり
滅び去る 古きものの声が
まったきものによる 永き治世のはじまりを告げるであろう

アルメキア聖王国王女 ノエル・リルテニア 生誕の際の予言



 アルメキア聖王国に隣接する荒野に、突如、ネルドール魔王国が勃興し、建国宣言を行ったのは、四年前のことである。
 時に、アルメキア聖王国の双子の王子と王女――レオンとノエルの、十二歳の誕生祝賀祭の最中のことであった。
 歴史的に見れば、ネルドール魔王国のそれは「建国」と言うより、「復活」と言った方がいい。ネルドールは、アルメキアとほぼ同時期に成立した、由緒ある国家なのだ。しかし、百年近くもの昔、ネルドールはアルメキアの討伐軍によって壊滅し、その「魔」の名を冠する王家は滅亡したはずであった。
 しかし、いずこからともなく現れた「魔王」ヴァルド・ネロは、ネルドールの廃墟に巣食う盗賊や異種族達を、その魔力と指導力によって手中に収め、わずか一年でネルドール魔王国の再建国を果たしたのである。
 聖なる神々の代理人たる聖王家によって統治されるアルメキア聖王国と、魔道を以って国土を支配するネルドール魔王国の間に、強い緊張関係が生じたのは、言うまでもないことであった。
 周辺の小王国群は、日和見を決め込んだ。アルメキアとネルドール、いずれも劣らぬ大国であることは、誰の目にも明らかである。遠からず、この二つの王国は雌雄を決し、勝者がここ一帯の支配者となるだろう。

 先年、この二つの勢力の拮抗が崩れかけた。魔王ヴァルド・ネロによって異界より召還された巨大な竜が、アルメキアの国土を襲ったのである。
 この悪竜の恐怖にアルメキア国民はよく耐え、兵士達は勇敢に戦った。その戦いの中で、自ら陣頭指揮をとったアルメキア聖王ナンテスI世は、片脚を失うほどの重傷を負った。だが、一年にもわたる苦闘の末、遂に悪竜は一人の英雄によって屠られたのである。
 そして、再び、両国の間に、偽りの平穏が訪れたのであった。

 しかし……



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