第4章



 春の連休。遊園地は、驚くほどに込み合っていた。
「にゃはーッ! すごいすごいすっごーイ!」
 そんな人込みの中、ミミコが嬉しげにはしゃぎ回ってる。
 師匠の助言が功を奏したのか、今のところ、ミミコは小康状態を保っていた。相変わらず失敗は多いし、例の“悪夢”も続いてはいるのだが、症状が進行するようなことはなくなっている。
 もちろん、このままでいいわけはない。僕は僕なりに、ミミコを完全に直すべく、いろいろと試してはいるのだが、未だ決定打は出ていない、といったところだ。
 そんな状況の中、僕ら二人は、息抜きとミミコの教育を兼ねて、電車で1時間くらいの場所にあるこの遊園地に来たのである。
 テーマパークといった洒落たものではなく、あくまで、昔ながらの遊園地である。しかし、親子連れやカップル、子供たちの集団などで賑わうこの場所は、わけもなく人をうきうきさせるような雰囲気に満ちていた。
「マスターっ、あれあれあれ、何ですカ?」
 かなり興奮気味の猫耳メイド服のミミコは、そんな中でもかなり目立つ存在だ。周りの人たちの注目を間違いなく集めながら、僕たちは中央の大通りを歩いていく。
「ああ、あれは、アトラクションの一つだよ。フリーフォールだね」
「自由落下、ですカ?」
「そうそう」
「じゃあ、重力加速度で加速しちゃいますネー。……あ、アレ、観覧車ですよネ!」
「そう。よく知ってるね」
「それくらいは知ってますウ!」
 ミミコが、幼い体にアンバランスなおっきな胸を反らす。
「で、あれがジェットコースターで、あれがメリーゴーランド……」
「うんうん」
「三角木馬ともいいまス」
「回転木馬!」
 元気な声でとんでもないことを言うミミコの言葉を、僕は慌てて訂正した。



 で、とりあえず、まずは観覧車に乗るということで落ちついた。
 正直言うと、僕はジェットコースターみたいな絶叫系の乗り物は苦手だ。だけど、二十歳間近な男が、年齢設定ミドルティーンのアンドロイドと一緒にコーヒーカップやメリーゴーランドに乗るのも、あんまりサマにならない。
 そういうわけで、観覧車である。この後は、筐体型の室内ライドものとかにスイッチして、無難にまとめよう。
 そんな僕の思惑など知らぬげに、ゴンドラの中で向かいの席に座るミミコは、観覧車のガラス窓に顔をひっつけるようにして、嬌声をあげている。
「んわーッ! ほんとうに、人がたくさんですねエ」
 次第に小さくなっていく眼下の人ごみを眺めながら、ミミコは感心したように言った。
「あのコースターのとこなんか、すっごい並んでますヨ」
「ほんとだ。みんな、物好きだなあ」
 思わず本音が出てしまう。
「マスターは、ああいうの、ダメなんですか?」
「えっと……ちょっと苦手、かな?」
「へエー」
 ミミコが、感心したような声をあげる。
「あ! あーあーあー!」
 と、また声をあげながら、ミミコは席を立って僕に覆い被さってきた。
「ミ、ミミコ? ……んぷ」
「マスター! 富士山ですウ!」
 座っている僕の頭越しに外を見ながら、嬉しげな声で、ミミコが言う。
「わー。ほんものほんものォ♪ ミミコ、富士山って初めて見ましタ」
 が、僕はそれどころじゃない。僕の両側に手をついてガラスに顔を寄せるミミコの胸が、もろに僕の顔を圧迫しているからだ。
 ふりふりのエプロンドレスとワンピースに包まれた柔らかな膨らみに顔全体を覆われて、息が苦しい。しかし、それは甘美な苦痛だ。
 が、いつまでもそれに身をゆだねていいわけがない。
「ミーミーコっ!」
 まるでちっちゃな子どもを叱るような口調で言いながら、僕はミミコの体をようやく離した。
 ミミコは、きょとんとした顔で僕の顔を見る。
「あのね……そのう、あんまり無防備に、人に胸を押しつけたりしちゃダメでしょ」
「ふエ?」
「だからね……うー、何て言うか……」
 こういう曖昧な言い方では、アンドロイドであるミミコには通じない。でも、どうしてもきちんと言えないのだ。
「マスター、顔、赤いですヨ」
「だって……ミミコが、あんなことするから」
「分かったア! マスター、ミミコのおっぱいにコーフンしちゃったんですね」
 嬉しそうに、ミミコが言う。
「そ、そういうこと。だから、あんまり体を人にくっつけちゃ……」
「はーイ♪ マスター以外の人には、体くっつけたりしませン」
 そう言いながら、ミミコは僕の膝をまたぐようにして腰掛け、抱きついてきた。幼げな顔に似合わない豊かな膨らみが、僕の胸を柔らかく押してくる。
「だ、だから……わっ!」
 僕は、思わず声をあげてしまった。ミミコが、左腕を僕の背中に回しながら、右手で僕の股間を撫で上げたのである。
「にへへェ……マスターのおちんちん、おっきくなってるゥ」
 そんなことをつぶやきながら、どこか潤んだような瞳で、上目遣いに僕の顔を見るミミコ。
「ダメだよ、ミミコ……こんなトコで、そういうコトしちゃ……」
 そう言う僕の言葉には、あまり力が入っていない。全く、僕はつくづく弱い男だ。
「いけないコト、なんですカ?」
「うん……」
 以外と素直なミミコの言葉に、僕は拍子抜けしたような感じで肯いた。
「じゃあ、ミミコに、お仕置きしてくださイ」
 と、ますます濡れたような目で僕の顔を見つめながら、ミミコはそんなことを言い出した。
「おしおき?」
「はイ……。いけないコトしたときは、ミミコのお尻……叩いてくださイ」
 そう言いながら、ミミコは、僕の膝にまたがった姿勢のまま、そろそろと自分のワンピースをめくりあげた。
 今日のミミコのパンツの柄は、どこかの運送会社のマスコットキャラの黒猫だ。
 その、可愛らしい下着に包まれた白く丸いお尻を見ると、かあっと、頭に血が昇ってしまう。
「マスターぁ……えっちなミミコに、うんと、おしおきしテ……」
 舌足らずな、それでいながらどこか蠱惑的と言ってもいいような声で、ミミコが僕にささやいた。
(おしおき……? ミミコのおしりを……? どうして……?)
 そんな当たり前の疑問が、ミミコに見つめられているうちに、とろとろととろけてしまう。まるで、魔法にかかったような気分だ。
 ごんごんという、ゴンドラが持ちあがっていく音が、なんだか僕自身の耳鳴りのように感じられる。
 どきつく心臓が送り出す血液が熱を持ち、僕の股間に集まってくるのが痛いほど感じられた。
 女のコのお尻を叩くということに、なぜ自分がこんなに興奮しているのか、さっぱりわからない。
「あんまり、おっきな声だしちゃダメだよ……」
 なのに、僕は、ちょっとかすれた声でそう言いながら、ミミコのお尻に手を置いた。
 ミミコは、僕のシャツをちっちゃな握りこぶしでつかみながら、こくんと肯く。
(僕は……何をしてるんだ……?)
 頭の片隅で、ぼんやりと僕自身の声が響く。
 が、その時には、僕は、ミミコのお尻を平手で叩いていた。
 ぱしっ
「にゃうッ!」
 パンティの上から叩いたせいか、ちょっとこもったような音が響き、それにミミコの短い悲鳴が重なる。
 ぞくぞくぞくっ、と僕の背中を震えが駆け上った。
 その戦慄に突き動かされるように、立て続けにミミコのお尻を打つ。
「にゃッ! ……ンあッ! ……あくッ! ……んんんッ!」
 僕の胸にしがみつきながら、ミミコは、お尻を打たれるたびに悲鳴をあげた。
 アンドロイドの人工皮膚には、人間と同等、もしくはそれ以上に敏感なセンサが張り巡らされている。叩かれれば痛みを覚えるはずだし、電子頭脳はそれをよくない刺激と判断するはずだ。
 が、ミミコの眉は八の字にたわめられ、頬は赤く上気している。そして、次第に息が荒くなっているようだ。苦痛とともに、快感を覚えているような様子である。
 そんなミミコの姿が、僕の不可解な興奮をますます昂進させた。
 手の平にじんじんとした熱と痛みを覚えて、僕はようやくミミコのお尻を打つのをやめる。
「はァ……はァ……はァ……はァ……」
 ミミコが、何かの余韻に喘いでいる。
 そして、僕の股間のモノは、隠しようがないほどにジーンズの下でいきり立っていた。
「マスター……」
 ミミコが、泣きそうな目で、僕の顔を見つめる。
 僕は、訳もなく乱暴な気持ちになって、ミミコの体をきつく抱き寄せた。
「ン……!」
 そして、荒々しくミミコの柔らかな唇を奪い、舌で口腔を蹂躙する。
「んン……んぐ……んくッ……」
 苦しそうな息を漏らしながら、ミミコは、けなげに僕の舌に舌を絡めてきた。ぴちゃぴちゃという唾液の混ざり合う音が、僕の脳を痺れさせる。
 ゴンドラが一番てっぺんに上がったのをきっかけに、僕はミミコの唇を解放した。
「ぷはァ……っ」
 ミミコが、切なそうに息をつく。
「後、向いて」
 僕がそう言うと、ミミコは素直に後ろを向いて、向かいのシートに両手をついた。
 ミミコのワンピースをめくりあげ、大事なトコロを隠しているパンティの布地を横にずらす。
 その部分は、すでにじっとりと濡れ、ひくひく震えながらかすかにめくれあがっていた。
「お仕置きされて、濡らしちゃったの?」
「にゃウ……ごめんなさイ……」
 僕の意地の悪い質問に、ミミコは恥ずかしそうに謝った。
 お尻を叩かれて興奮してしまうミミコの姿が、僕の中の“何か”を目覚めさせるような感じがする。
 僕は、その“何か”に突き動かされるように、股間のモノを外に出し、ミミコのクレヴァスに押しつけた。
 そして、ため息が出るほど柔らかいそこの感触を味わうように、先端を浅くくぐらせて、入口の部分をかき回す。
「あ、あ、あァ〜ン」
 ミミコは、シートの背もたれに頭を預けるような姿勢で、びくびくっ、と体を震わせた。
「マ、マスター、お、おねがい、ですゥ……はやく、はやくゥ……ッ」
 ミミコがそんな辛そうな声をあげると、ますます焦らしたくなってしまう。
 僕は、ぐにぐにとミミコの丸いお尻をまさぐりながら、浅く挿入させた状態の亀頭をさらに上下に動かした。ミミコのそこから、止めどもなく、とろとろと粘液が溢れ、ゴンドラの床を濡らす。
「ひあ、は、はう〜ン」
 ミミコは、なんとか下の口で僕のを咥えこもうと、お尻を後にずらそうとする。でも、僕はそれを許さない。
「マ、マスターのいじわる〜ッ」
 子どもみたいな声で、ミミコが僕のことをなじる。肩越しに僕をにらむそのおっきな目から、涙がこぼれそうだ。
 ミミコが可哀想になる前に、自分自身の欲望に突き動かされて、僕は、ひどく乱暴に腰を前に進めた。
「にゃはあッ!」
 そのきつい挿入に、ミミコは高い悲鳴をあげ、向かいのシートに突っ伏してしまう。
 そんなミミコの細い腰に手をあてがって、僕は抽送を始めた。
「あっ、あ、あア、あう、う、うう、ンにゃあッ!」
 ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ……という卑猥に湿った音が、ミミコの可愛い喘ぎに重なる。
 僕は、ミミコの小さな背中に覆い被さるようにして、その胸に手を伸ばした。青みがかった黒髪が、僕の鼻先をくすぐる。
 僕は、布地に包まれた、手の平からこぼれそうな豊かな膨らみを、乱暴に揉みしだいた。
「にゃうううううウっ!」
 ミミコが、ひときわ高い声をあげる。
 初体験のころはミミコにリードされっぱなしだった僕だが、最近では、主導権を握ることもできるようになってきた。思ったとおりの反応を返してくれるミミコが、すごく愛しい。
 ミミコの、こういうことをするにはちょっと幼い外見に、何だか罪悪感も湧いてくる。でも、それが興奮を倍化させるのも事実だ。
 そういったもろもろの情念に突き動かされるように、僕は夢中で腰を使った。
「はァっ! あ、あ、にあア! あう、う! んン〜ッ!」
 かくかくと頼りなげに頭を揺らしながら、ミミコは僕の脳をとろかすような媚声をあげ続ける。
 僕は、次第に頭の中が真っ白になっていった。
 ぬるぬると絡み付き、きゅんきゅんと締め付けてくるミミコの粘膜に、僕のペニスは、着実に射精へと追い詰められていく。
 僕は、この快楽をできるだけ長く引き伸ばそうと、必死になって唇を噛んだ。
 わずかに、冷静さが戻ってくる。
「あ!」
 僕は、慌てて腰を引いた。
「にゃわあッ?」
 いきなり行為を中断させられて、ミミコが奇妙な声をあげる。
 が、それどころではなかった。ゴンドラが、地面に近付きつつあるのだ。
 もはや、行列を作る人の表情が辛うじて分かるくらいにまで、発着所が近付いている。
「マ、マスタ〜……」
 浅ましくいきり立ったままのアレを苦労してジーンズに押しこんでる僕に向かって、床にぺたんと座り込んでしまったミミコが情けない声を上げた。

「だいじょぶ? ミミコ」
 熱病患者のようにふらふらと足取りの定まらないミミコを支えてやりながら、僕はミミコに訊いた。
「にゃう〜……力が、はいんないでス〜」
 その言葉通り、ミミコの細い脚はがくがくと震えている。
 かく言う僕も、ジャケットのすそで突っ張った股間を隠しての前かがみだ。かなり、情けない。
 顔を赤くしながら鉄製の階段を降りていく僕らを、係員のお兄ちゃんなんかが不思議そうに見ていたが、それどころではない。下手をすると、二人して転げ落ちてしまいそうだ。
「ますたァ〜……」
 通りに出たところで、ミミコが、僕の腕にしがみついた。
「うん……」
 それ以上言わなくても、ミミコが何を言いたいかは分かっている。
 僕は、人気の無い方へ、無い方へと歩みを進めた。
 アトラクションのない、ちょっとした公園のようになった敷地。そこにある薄汚れた公衆トイレの中に、ミミコを引っ張っていく。
 念の為、個室に入って鍵をかけた。
「はうウ……」
 と、ミミコが耐えられなくなったように、僕の胸に倒れこんでくる。
「ン……」
 なだめるような感じで頭を撫でながらキスをすると、ミミコはそのままくにゃくにゃと座り込んでしまいそうになった。慌ててその小さな体を支えてやる。
「ますたぁ……おねがい、です……ミミコを、イかせてェ……」
 僕の腕の中で、ミミコは切れ切れにそう訴える。
 僕は肯き、ミミコのワンピースを大きくめくりあげた。
「うわ……」
 思わず、声が出てしまう。ミミコのショーツは、ミミコ自身が分泌した液体でぐっしょりと濡れ、その無毛の恥丘を透かして見せていた。
 ワンピースのすそをミミコの小さな手に握らせ、濡れた白い布切れをずり下ろしていく。
 透明な粘液が、あどけない外見のスリットから溢れ、ぽたぽたと滴る様が、くらくらするほど扇情的だ。
 ミミコの脚からショーツを抜き、そして、僕は自分自身の欲棒を解放した。
 急な角度で天を向いているそれを、脚を広げて立ったままのミミコのアソコにあてがおうとする。
「にはァ……」
 空ろな表情でため息を漏らすミミコの目は、すでに焦点が合っていなかった。
 こういうふうに立ったままするのは始めてなので、なかなか狙いが定まらない。
「ンにゃァ……あひ……イジワル、しないでェ……おねがい……おねがい、ですゥ……」
 そういうつもりはなかったのだが、結果的にはこの期に及んでも焦らしに焦らされて、ミミコはぽろぽろと涙をこぼしながら哀願した。
 ようやく、ペニスが目的の場所をとらえる。
 僕は、ミミコのお尻に両手で支えるようにして、一気に下から貫いた。
「にあああああああああッ!」
 ミミコが、高い嬌声をあげた。そして、腕を僕の首に絡め、脚を腰に回して、体全体で僕にしがみつく。
 きゅきゅきゅっ、と膣肉が蠢動し、僕のシャフトを痛いくらいに締め上げた。
 意外なほど軽いミミコの体を、両手と、そして股間のモノで、空中で支える形になる。
「あ……あはァ……にゃぁン……♪」
 ミミコが、僕の耳元でうっとりとつぶやいた。どうやら、すでに絶頂に達してしまったらしい。
 僕は、ミミコの呼吸が少し落ちつくのを待ってから、腰を使い始めた。
「にあ……あっ、あっ、あっ……あっああア……」
 イったばかりで敏感になっているはずの粘膜を、ずりずりとシャフトの表面でこすりあげる。
「あひ……ンはぁ……ンにゃあ……あうウ……ッ」
 ミミコの表情も声も、ちょっと苦しげだ。でも、それ以上の快美感が、ミミコを支配していることが伝わってくる。
 僕は、その半開きになったピンク色の唇に、唇を重ねた。
「ん……んぐ……んふン……んふゥ……」
 媚びるような鼻声を漏らすミミコの口内を舐め回すと、ミミコの舌がそれに応えるように絡みついてきた。そのぬるぬるした舌を、思いきり吸い上げる。
 そして僕は、ディープキスを続けながら、ミミコのお尻をぐりぐりと回すようにして動かした。
「ん、んふ、ふン、んううう〜ッ」
 ミミコのくぐもった喘ぎ声が、ますます苦しげになる。
 僕の抽送に合わせ、ミミコの細い足がかくかくと宙で揺れた。
「ぷあっ」
 口を離すと、ミミコは大きく息をついた。そして、はァッ、はァッ、はァッ、はァッ……という荒い息を繰り返す。
「ますたァ……ミミコ……また、イっちゃウ……」
 ミミコが、ほとんど泣き声で訴えてきた。
 僕は、無言で肯いた。正直、僕自身も、きちんと話せるような状態ではなかったのだ。
「ゴメンなさい……また、またミミコだけェ……あ、にあ、あああ、にゃはああああああッ!」
 再びミミコの靡粘膜がざわめき、僕の射精をうながす。
「ンうっ……」
 腰が砕けそうな快感をどうにかやり過ごし、僕は、ますます抽送を速めた。
「にゃああッ! あッ! あッ! あッ! あッ! あッ! ああああアーッ!」
 立て続けに絶頂を迎えているミミコの体が、僕の腕の中でびくびくと痙攣する。
「お……おねがい……ッ! ますたーも……ますたーも、イって、くださイ……ッ!」
 きゅうううううっ、とミミコの大事な部分が、すでに限界に近い僕のシャフトを一層きつく締め上げた。
「あっ、あっ、あ、あーッ!」
 僕は、我ながら情けない声を上げながら、とうとう最後を迎えた。
 すさまじい勢いで、驚くほど大量の精液がペニスの先端からほとばしる。
「にはアッ!」
 びゅうっ、びゅうっ、びゅうううっ、という、僕のその部分が律動しながら射精する音が聞こえてくるような錯覚まで覚えてしまう。
「にゃああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」
 ミミコが、高い声をあげながら、その体をのけぞらせた。
 一瞬、何も分からなくなる。
 どん、と背中に硬い感触が当たった。よろけて、トイレのドアに背中をぶつけたらしい。
 そのまま崩れ落ちそうになるのを懸命にこらえる。
 そして、ゆっくりとミミコの両足を床に下ろした。
「にゃうぅ……ン♪」
 そんな声をあげながら、ミミコが、ぐったりと体を弛緩させ、僕にもたれかかる。
 そして、僕ら二人は、薄暗いトイレの個室の中で、しばらく強烈な快感の余韻にひたっていたのだった。



 僕とミミコは、ようやく乱れた呼吸と衣服を整えた。
 二人の粘液で濡れたお互いの部分を丁寧にティッシュでぬぐい、そして、まだ濡れてるミミコのショーツを、ビニール袋に入れてバッグにしまう。
「にへ……なんだか、スースーしまス」
 ミミコが、恥ずかしそうに笑った。
「階段とか、気をつけてね」
 ミミコのワンピースは、けっこう丈の短いタイプなので、一応、そう注意しとく。
 そして、僕は個室の鍵を外し、そおっとドアを開いた。
 いきなり、どん! という衝撃が、僕を襲う。
「うわっ?」
 訳が分からないまま、狭いトイレの個室の中で、壁に背中を押しつけられた。
「マスターッ!」
 ミミコの悲鳴が聞こえる。
 そっちを向こうとした僕の鼻先に、バタフライナイフが突きつけられた。
「お楽しみだったみたいだなあ、お兄ちゃん」
 小柄な僕よりは頭半分は大きな男が、にやけた顔を近付けて来た。歳は僕と同じ位だろうか。崩れた服装に剃った頭、鼻にピアスをしている。
 あのときの声が、外に漏れていたのだろう。顔に、火がついたみたいに熱くなる。
「へへ……俺たちにも分けてくれよ」
 別の声が聞こえたので、目だけでそっちを見ると、肥満した同じくらいの歳の男が、ミミコを個室から引っ張り出してるところだった。剥き出しになった太い二の腕に、意味不明の図柄の入墨が彫られている。
「なかなか可愛い人形じゃねえか。羨ましいねエ」
 そう言ったのは、個室の外にいた、小柄な男だ。頭を金髪に脱色しているが、全然似合ってない。
「ミミコを離せっ!」
 そう叫んだとき、左手で僕の襟首を掴んだ鼻ピアスが、いきなり腕を大きく動かした。
 ごっ、という鈍い音が響く。頭をトイレの壁に叩きつけられたのだ。
「舐めた口きくんじゃねえよ、お兄ちゃん」
 にやけた顔のまま、鼻ピアスの男が言った。そして、僕の首にナイフを当てる。
「や、止めてくださイ!」
 そう叫ぶミミコの髪を、入墨の男が乱暴に掴んだ。
「あウ……」
「大事なご主人様を助けたかったら、きちんとやることやらねえとなあ」
 そう言いながら、入墨はミミコの頭を強引に下げた。
 汚れたトイレの床に、ミミコが膝をつく。
「ほら、ご奉仕するんだよ!」
 入墨は、ミミコの顔に自らの股間を押しつけた。
「お兄ちゃんもきちんと見て、指導してやんな」
 ナイフを首筋に当てたまま、僕の後ろに回りこんだ鼻ピアスが、そう言って僕を個室から押し出す。
「お前ら……」
 うめくように言う僕の腕を、鼻ピアスがひねり上げた。
「く……」
 容赦のない力に、声がもれてしまう。
「やめて、くださイ……マスターに乱暴しないデ……」
 声を震わせながら言うミミコの顔を、うながすように入墨が股間で叩く。
 ミミコは、観念したように目を伏せ、入墨の男のジッパーを下ろした。
 そして、両手を使って、赤黒いグロテスクな牡器官を取り出す。
「おら、早くしろよ!」
 躊躇するミミコの頭を、入墨がぐらぐらと揺さぶった。
 ミミコは目を閉じ、ピンク色の唇をそっと開く。
「どうだよ? ご主人様のより大きいんじゃねえか?」
 そんな下卑た言葉には答えず、ミミコはぱっくりと入墨の亀頭を咥えこんだ。
 そして、ゆっくりと頭を前後させ始める。
「うおっ……さすがにアンドロイドだな……ツボを心得てるぜ……」
 そんなことを言いながら、入墨は、自らも腰を動かし、ミミコの口を犯していく。その可憐な口から、たらたらと唾液が零れ落ちた。
 ミミコは、涙を流しながら、奉仕を続けている。
「ん、んぶっ……ンう……んぐぐっ……んえっ……」
 ミミコがそんな苦しげな声をあげても、入墨は容赦しない。ミミコの髪をつかみ、突き出た腹をゆすりながら、なお一層腰の動きを速めていく。
 食いしばった僕の歯が、きりきりと音をたてた。
「じゃあ、俺はこっちをいただくかな……」
 そう言いながら、金髪が、深くお辞儀をした姿勢のミミコのワンピースをめくりあげた。
「んンン〜ッ!」
 ミミコが、口の中にペニスを咥えこんだまま、悲痛な声をあげる。
「なんだよ、こいつノーパンだぜ!」
 ミミコの丸いお尻を剥き出しにした金髪が、そう言ってげたげたと笑い出した。
「おおかた、いつでもどこでもできるよう、そうしてんだろ」
 僕の背後の鼻ピアスが、ズボンを下ろしてる金髪に言った。
「要するに携帯トイレだな」
 その言葉を聞いたとき、とうとう、僕の臆病な理性が弾け飛んだ。
 首に当てられたナイフを全く意識せず、思いきり頭を背後に叩きつける。
「げッ!」
 後頭部で、なにか硬いものを叩いた感触があった。ちょうど、鼻ピアスの口のあたりを直撃したはずだ。
 僕の首筋を浅く切ったナイフが、澄んだ音をたててコンクリの床に落ちる。
 僕は、飛びつくようにそれに手を伸ばした。脅すとめとかそういうつもりじゃなくて、本当に刺してやろうと思った。
「野郎!」
 と、ナイフを握った僕の右手を、金髪が踏みつける。
「くッ!」
 顔を上げると、ベルトを外してずり落ちかかったズボンを両手で持った金髪が、もう片方の足で僕の顔を蹴りに来たところだった。
 反射的に頭を引こうとした僕のこめかみを、金髪の爪先がしたたかに叩く。
 僕は、トイレの床に無様に転がっていた。メガネが、さらに向こうにすっ飛んでしまう。
「こいつッ!」
 口と鼻から血をこぼしながら、鼻ピアスが不明瞭な発音で言い、足元のナイフを拾い上げた。そして、倒れた僕の胸を思いきり蹴る。
「ぐ!」
 呼吸が、止まる。
 鼻ピアスは、目を血走らせながら、さらに蹴り続けた。次は、腹だ。
 痛みすら麻痺してしまうほど、何度も何度も蹴られる。
「死ね、この……」
「ああああああああああああああああああああああああああああ〜ッ?」
 と、いきなり、何か動物じみた悲鳴が響いた。鼻ピアスの動きが止まる。
 見ると、入墨が、股間を押さえてうずくまっていた。
 両手の隙間から、どくどくと鮮血が溢れている。
 その傍らに、口元を朱に染めたミミコが、無表情な顔で立っていた。
 ミミコの足元に落ちている赤い塊は――入墨の陰茎だろうか?
「……」
 その小さな体から凄まじい気迫をほとばしらせながら、ミミコが、僕を挟むように立っている金髪と鼻ピアスの方へ歩く。
「んなろおおおッ!」
 金髪が、何か喚きながら、ポケットからナイフを抜き、ミミコに突きかかった。
「ミミコ!」
 僕が叫んだときには、ミミコは空中にいた。
 獲物に飛びかかる猫よりも素早く、金髪の頭部に両手を繰り出す。
「んげべべべべべべッ!」
 金髪は、奇妙な声をあげながら大きくのけぞり、そのまま仰向けにぶっ倒れた。
 その金髪の顔の上に、ミミコが着地する。ごッ、という硬い物同士がぶつかる鈍い音が響いた。
 ミミコが乗る金髪の頭の下に、じわじわと赤黒い血だまりが広がっていく。驚くほど大量の血だ。
 もはや、金髪の体はぴくりとも動かない。
「う、う、う……」
 鼻ピアスは、驚愕と恐怖に目を見開きながら、震える手でナイフを握り直した。
 そして、床に膝をついて、ナイフを僕に突きつける。
「よ、よせッ! こいつの……」
 ミミコは、鼻ピアスの言葉など聞こうともしないようだった。
 何の遠慮もなく金髪の頭を踏み台にして、鼻ピアスに襲いかかる。
「なああああああああああああああーッ!」
 鼻ピアスは、絶望的な叫びをあげながら、迫るミミコに必死でナイフを突き出した。
 が、ミミコの動きは、完全に人間の動きを凌駕している。
 ミミコと鼻ピアスの体がぶつかった。
 ざああっ、と、倒れたままの僕の顔を、血風が叩く。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええ?」
 鼻ピアスが、大きくよろけながら、口を空けっぱなしにして、茫然と自分の右手を見つめた。
 ナイフを握っていたはずのその右手は、まるで何かの機械に巻き込まれたようにずたずたになり、原形をとどめていなかった。砕けた白い骨が、赤い肉の中からはみ出ている。
 そして、鼻ピアスの右の脇腹には、まるで冗談みたいにあっさりとナイフが刺さっていた。
「あ?」
 それを認めた鼻ピアスの顔が、子どものように無邪気な驚きの表情を浮かべる。
 そして、鼻ピアスはくるりと白目を剥き、小便器に顔を突っ込むようにして崩れ落ちた。
「あ、あ、あ、あ……」
 未だ意識を保っている入墨の男が、涙と涎と鼻水で顔を濡らしながら、こっちを見ている。
 純白のエプロンドレスを真紅に染めたミミコが、入墨の方を向いた。
「わあああああああああああああああー!」
 入墨は、身も世もないような声をあげて、股間を押さえたまま立ちあがり、必死でここから逃れようとアヒルのような足取りで歩き出した。
 その背中に向かって、ミミコが走り出す。
「だ、ダメだよ! もう……!」
 僕の声が、ミミコの耳に届いたのかどうか。
 ミミコは、入墨の肥満した体を突き飛ばすようにして、トイレの外に駆け出した。
 僕は、慌ててミミコの後を追った。トイレから出るときに、ちら、と入墨の方を向くと、そいつは泡を吹きながら失神していた。
 トイレから出ると、ちょうど、ミミコがトイレのすぐ外にいた誰かに相対しているところだった。
 白のスーツ姿のその男の人は、ついさっきまで携帯電話でどこかに話し中だったらしい。
 ミミコが、凄まじい速度でその人に右手を繰り出す。
「ミミコ、ストップ!」
 僕は、祈るような気持ちで、強制終了のコマンドを叫んだ。
 がくン、とミミコの体から力が抜け、その場に倒れる。
「だ、大丈夫ですか?」
 僕が慌ててかけよると、その人は、何か慌てたように向こうに駆け出してしまった。
「え?」
 あの顔には、見覚えがある。
 そうだ、師匠を追いかけていたあの若いヤクザ風の人だ!
「……って、なんで?」
 思わず口に出してそうつぶやきながら、僕は歩を進めた。
 そして、地面に倒れたままのミミコを抱き起こす。
 ミミコの両手は、血まみれだった。その指の先端から、鋭い刃物が突き出している。
「格闘用クロー?」
 それは、チタン合金でできた戦闘用のカミソリだった。刃渡りは5センチほど。手の甲に収納されていて、使用時には指の人工骨格をスライドして展開する仕組みのヤツだ。
 普通のアンドロイドに装備されているようなものじゃない。軍用の、しかも特殊部隊に配備されているようなアンドロイド向けの、特別なオプションである。
「なんで、こんなものが……」
 とにかく、このままにしておくわけにはいかない。僕は、ミミコの設定を初期状態に戻した。
 ミミコの指がぴん、と伸び、チタンの爪がするすると収まっていく。
 僕は、大きくため息をついた。と、視界の端に、地面に落ちたままの何かが映る。携帯電話だ。
 あのヤクザ風の人が、ミミコの襲われたときにポケットに入れようとして落としてしまったらしい。相当慌てていたんだろう。
 これは、何か重大な手がかりになるはずだ。
 その携帯をネコババし、それからミミコの体を抱えあげる。やっぱり、軽かった。
「どうしようかな……」
 僕は、ゆっくりと頭を巡らせながら、ぼんやりとつぶやいた。



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